月刊 生業(なりわい) ―エッジな人のおシゴトスタイル大公開―

クリエイターは技術を高めるだけでは不十分。ニーズを理解する努力が喜ばれる仕事を生み出す。

プロフィール
小松 学史 1973年生まれ。Webコンテンツクリエイター・インストラクター
大学卒業後、セキュリティ機器開発会社に入社。1998年に退職後、デジタルハリウッドで学び、同校でティーチングアシスタントを務めるかたわら、フリーランスとしてCD-ROM作成やWebコンテンツの制作を始める。2003年頃からFlash作成が中心となり、2004年には『基礎から学ぶモバイルFlashコンテンツ作成講座』(技術評論社)を執筆。現在は、携帯電話を含めたFlash作成を中心にWebコンテンツを幅広く制作し、デジタルハリウッド大学やロクナナワークショップ、m-schoolでインストラクターを務める。

今の仕事を生業にしようと思ったきっかけ

原 一浩さん写真小学校の卒業文集には、将来の夢はカメラマンと書きました。といっても、これは私の叔母がカメラマンで、何となく憧れて書いただけのこと。発売されたばかりのファミコンに夢中(笑)の至って普通の少年でした。中学、高校では勉強はあまり好きではありませんでしたが、数学だけは不思議と大好きで、大学は数学を武器にして理系に進学しました。入学したのは、グラフィックやディスプレイについて学ぶ画像工学科という、少し珍しい学科。ところが学習内容が想像とは違い、しだいに勉強から離れてしまいましたが、大学4年の時に今の仕事に通じる出合いがありました。ゼミの研究室にMacintoshが置いてあったのです。そのMacで友人がゲームをしているのを見て、すぐに僕ものめり込み、もっぱらゲームを通してMacのオペレーションをマスターしました。ピンボールでは、一時期、全国3位まで上り詰めましたからね(笑)。

就職はセキュリティ機器開発会社に入社しました。定時で帰れるし土日も自分の時間に使えて嬉しいな――と満足していたのは最初の頃の話。友人たちが深夜まで残業しているのを知り、「5年後には能力に大きな差がつくぞ」と、焦りを感じ始めました。そんな気持ちで迎えた入社2年目、大きな事件が起きました。自動車を運転中に事故を起こし瀕死の重傷を負ってしまい、2ヶ月間は安静にしていなくてはならず、そのとき自分の人生を振り返る時間がたっぷりとできてしまったんです。ベッドに横たわったまま、「自分が本当にやりたいことは?」と自問を続け、やはりデジタル関連の仕事をしたいと気づいて退院して1年後に退職。そして、半年間、デジタルハリウッドでMacのオペレーションを総合的に学び、卒業後、同校でティーチングアシスタントを務めるかたわら、3DCGを使ったグラフィックの仕事をフリーランスの立場で請け負い始めました。その後、自分の武器を考えてCD-ROM作成の仕事を増やし、2003年頃からFlashを中心にWeb関連のコンテンツを幅広く制作するようになって今に至ります。現在は、デジタルハリウッド大学に加え、数校のインストラクターを兼任しています。

クリエイターとしての基本スタンス

原 一浩さん写真5年ほど前、中学生が普通にFlashを触っているのを聞いて、ものすごく怖くなりました。こいつらが育ったら、僕の仕事なんかすぐになくなってしまうぞ、と。まるでモンスターでも目の当たりにした気分でした(笑)。しかし、今では怖れはありません。
それはなぜか。仕事は、技術だけでは完了しないからです。仕事は芸術作品ではありませんから、必ず相手のニーズが存在します。それをしっかりと受け止めるとともに、相手の求めているものを見極め、「こういう方法もありますよ」などとプラスアルファの提案をするには高度なコミュニケーション能力が必要です。ここで言うコミュニケーション能力には、「この人が言っているのだから間違いないだろう」と、相手を信頼させる話し方や態度なども含みます。もちろん、技術面でも誰にも負けないように勉強を続けるつもりですが、同時に、そんなコミュニケーション能力を備えているのは大きな武器だと自負しています。

「多様性」を育てることも心がけています。Webは、HTML映像、サウンド、スクリプトなど、さまざまな技術の合成で構築されています。今ではとても1人では制作し切れず、分業化が進んでいます。たとえば僕の場合も、Flashだけを作り続けていれば視野はどんどん狭まってしまう。隣接する技術を貪欲に学ぶことで、Flashの技術は広がりが生まれますし、新たな分野の仕事の獲得にもつながるのです。フリーランスとして仕事を始めた当初は雑誌の付録用のCD-ROMの作成が多かったのですが、しだいにDVDなどに取って代わられてCD-ROM自体のニーズが減り、仕事の中心をWeb関連に移した経緯があります。この業界は技術の進歩や淘汰が激しいですから、いつまでもFlashが自分を食べさせてくれるとは限らない。そのためにも多様な技術の引き出しを持たなければ、と思っています。

未来のクリエーターたちへのメッセージ

インストラクターとして大学生と話していると、本当に昔の自分を見ているようです。自分のやりたいことが、とても漠然としている。そこで、私は自身の経験を踏まえ、こうアドバイスしています。まず、なぜ、やりたいことが見つからないのか。それは、自分を見ていないからだ。それには、人と話したり、自分が何者であるのかを考えたりして、自分を“調べる”ことが必要だ。そのようにして自分を理解して初めて、どのような仕事をしたいのか、あるいは何に向いているのかが分かる、と。

若さには長所も短所もあります。視野が狭いのは短所に見えますが、その反面、後先を考えずに飛び込める強さがある。僕が25歳で退職してデジタルハリウッドに入学したのも、いま思えば若さゆえの決断でした。責任感など少なかったし、経済的な苦しさにも耐えられると思っていた。そして、若い学生は、「授業をサボっているのに、どうしてそんなに分かっているの?」と驚かされるほどの吸収力がある。逆に30歳を超えて入学した学生は、吸収力は弱いけれど、目的意識や情熱がある。両方を合わせればすごいと思うのですが(笑)、とにかく自分の武器を自覚して学んでほしいと思っています。

僕自身は30代半ばを迎え、時々、「若さを失ってきたかな」と、不安になることがあります。だけど、楽しく仕事をするには、つねに自分を変化させ続けないといけない。それには、時には少々の危険には目をつむり、新しいことにチャレンジするパワーが必要だと思っています。これからも年令には関係なく、精神的な若さを保ち、新しい自分を作り続けていきたいですね。

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