Webサービスのユーザー獲得数の伸びがイマイチだなと感じたとき、ついつい手を出してしまいがちなリニューアルや大規模改修、機能追加・・・
どうか、いきなりその決断をする前にぜひ一度以下を読んでみてください。
Facebook、QuoraのグロースハッカーAndrew Johns氏が語る実践的なグロースハックメソッドとその成功と失敗の中に、ヒントがあるかもしれません。
※以下は7/26にOpen Network Lab主催で行われたAndrew氏のセミナーレポートとなります。
1.サービスの負債を減らし、小さな改善を積み重ねる

小さな改善を積み重ね、同時にサービスの負債(ユーザーにとって好ましくない点)を減らしていけば、サービスの成長は加速していく。
Andrew氏はそれを複利の考え方になぞらえながら、以下のように具体的な事例を用いて説明してくれました。
小さな改善を重ね、大きな成長に ― Facebookでの事例
・スタートアップから順調に伸び、多くの資金を得た
・大量の機能を追加したが、ユーザーの獲得数増大には大きな成果なし
・全機能について新規ユーザーのリテンションに繋がったかを計測
・「追加した機能はリテンションに繋がっていない」という結論に
・リテンションとなるのは「友人とつながること」そのものだと仮定
・2年間、新機能の開発をストップして検証
・「登録から10日以内に7人以上の友人と繋がる率」をKPIに設定
・その数値目標を達成するための施策のみに絞って実行
結果としてこれが多くの新規ユーザー獲得に繋がったのだそうです。
しかし2年間の新機能追加ストップとは・・・驚きました。
負債を減らすことで成長を加速 ― Twitterの事例
・ユーザーの伸び率が鈍化
・懸命にアクセス解析とそれに基づく改善を実行
・しかしあまりうまくいかず
・徹底的にユーザー視点で”使いにくい”ポイントを調査
・新規アカウント登録画面に原因があるのでは?と仮定
・氏名入力と同時に利用可能なアカウント名候補が現れるよう設定
上記を実行した結果、なんと
1日あたり6万ユーザーもの新規獲得増加という成果をあげたのだとか。
2.サービスのグロースハックは、会社全体で実行する

グロースハックは社外の人間に頼るよりも社内の人材でチームを作り、会社全体で行うほうが上手く行く。
Andrew氏はその失敗例と成功例についてもそれぞれ具体的に話してくれましたので、以下にご紹介します。
企業の利益とユーザーベネフィット ― MySpaceの事例
・MySpace会員約1億、Facebook会員約500万程度だったころ
・MySpaceは「収益拡大」を優先する施策に移行
・ログイン画面や新規会員登録画面にまで広告を掲出
・結果サービスの成長率が著しく低下
同時期にFacebookはユーザーベネフィットの向上にのみ注力し、広告を一切出さず、小さな改善を繰り返したんだそうです。
結果は言わずもがな。Facebookは成長率を上げ続け、現在に至っているというわけですね。
チームで施策を打つことのメリット ― Quoraの事例
・Quora所属時のグロースハックチームはエンジニア4人とデザイナー
プロジェクトマネージャー/データサイエンティストが各1人
・社内の人間でチームを作り、テスト環境と分析ツールを自分たちで作成
・200近くの仮説を立て、ひたすら検証
・成長率を1年で3倍に、サインアップ率を4ヶ月で20倍
バイラルを5倍など大きな成果を創出
「社内のチームでやるからこそ仮説についてすぐに施策を打つことができ、短期間に多くのテストを行うことができた。」とAndrew氏は言います。
仮説検証を行う事自体を良しとする会社の体制と、社員で構成されたグロース・チームであればこそですね。
3.サービスの成長への方程式をシンプルにする

「高い成長率を達成できる手段はシンプル。色々な場面で適用できる単純な方程式を作る事が重要なんだ。」と、Andrew氏が示してくれたのが以下の図版。
例:ECサイトの場合のシンプルなグロース方程式
シンプルですねぇ。。
この図を示しながら語られたAndrew氏の言葉が印象的でした。
多くの企業が、自分たちのサービスについて”あまりにも多くの数値を追いすぎている”し、”複雑に考えすぎている”
本来サービスの成長に必要な指標はもっとシンプルに考えるべきで、それぞれの指標に担当を付けて”小さな改善を続けること”こそが、最も効率的なグロースハックなんだ
サービスの継続的な成長を実現するための実践的グロースハックメソッド、いかがでしたでしょうか?
ECやメディアを含むあらゆるWebサービスに応用できる非常に汎用性の高いフレームワークなので、この記事を読んだ方にはぜひ現場で活かしていただければと思います。
当日会場で行われた質疑応答より
以下は、当日の質疑応答時間にオーディエンスから寄せられた質問とその回答の紹介です。ここでも非常に興味深いお話がきけましたので、ぜひご覧ください。
Q:どのアイデア(仮説)を検証し、実装し、また継続させるのか という意思決定はどうしていますか?
A:数値計測が可能で、かつ成長率が高くなりそうな点についてブレストを行い、実施していきます。
ただし、その「数値計測の可否」は限りなく幅を広くとって、色んな数値をトラッキングできるように体制と作ってからが望ましいです。
そしてできるだけたくさん試す事。テストした仮説検証はそのほとんどが失敗しますから。
Quoraの場合2ヶ月で70もの施策を試したがそこそこ良い結果を出したもので15。とても良い結果を出したものが3。残りの52は全部失敗だったんです。
Q:グロースハックはどのタイミングで始めればいい?
A:1000人のユーザーのうち2割〜3割使い続けてくれるようになったら、それは負債(ユーザーにとって好ましくない点)の少ないいいプロダクトだと思う。
グロースハックを実行するならそのタイミングですね。
またもう一つの指標として、[新規で入ってくるユーザー数]が、[既存ユーザーの離脱(ここではサービスを使わなくなってしまう数を指す)]より多くなったらら、そのタイミングで踏み切っても良いと思います。
Q:プロダクトマネージャーはエンジニアリングをどの程度まで理解したほうがよいか?
A:いいグロースチームのプロダクトマネージャーになるにはデータを理解する能力を磨くと良いと思います。とにかく色々な方程式やコンピューテーション、統計学を理解し、データを深く理解しておくと”良い仮説”を作れる。データが大好きじゃないと難しいだろうと思います。
実際Facebookでは「5日間データを分析して2日で実装する」なんてことが多かったですね。
Q:(Quoraの事例において)なぜ自分たちで計測ツールを作るまでやったのか?
A:mixpanelやGoogle Analyticsといったツールはすごく便利な反面、色んな情報を出し過ぎるからです。僕たちが作ったツールでは、見せる情報をすごく絞り込んで、重要なKPIだけを全ての社員が見て分かるようにしていました。
最初の頃は両方のツールを使っていましたが、ある程度の成長率が達成された時によりシンプルな分析ツールを作ってそっちに切り替えたんです。
Q:離脱数が新規流入数+リピート数と拮抗しているとき、新規流入とリピートのどちらの成長に力を入れるべき?
A:まず試すことは、新規流入数をちょっと増やしてみることですね。その結果離脱数も同じように増えたなら、プロダクトのエンゲージメントが弱いと言えるのでリテンションをあげることに集中して施策を打ってみると良と思います。
ユーザーの新規流入数を増やすことは割と試しやすいからそこから始めるんだ。エンゲージメントを上げる施策などは非常に時間と手間が必要だから、それは後で試すようにします。
(執筆/編集
中村健太)