サイバーエージェント・ベンチャーズの代表を務めている田島です。
「多くのひとが事業計画づくりで損をしている」私はベンチャーキャピタリストとして、数多くの資金調達の提案を受けている中でそう感じています。
そこで今回の記事では、提案を受ける側のベンチャーキャピタリストの視点で「事業計画書で失敗しないための5つの注意点」をまとめました。ベンチャーキャピタリストへの出資提案は、一回プレゼンに失敗するとその後会ってもらえないケースも多々あります。これから資金調達の機会がある方は注意してみてください。
■目次
1.「解決する課題or満たそうとしている欲求」から説明できているか?
2.「マーケット規模」のフレームワークは的確に描けているか?
3.「競合調査=(ライバルを知る)」は出来ているか?
4.「制約条件」にはまった事業戦略になっていないか?
5.「KPIとファンネル」はしっかり準備できているか?
6.まとめ
1.「解決する課題or満たそうとしている欲求」から説明できているか?
いきなり
自社のサービス説明から入る方がいますが、まず「自社でやっている(やろうとしている)サービスが解決する課題や、どんなユーザーの、どんな欲求を満たすサービスなのか」の説明から入った方が良いです。
もしくは、起業に至った経緯などに上記を織り交ぜて話すのも良いでしょう。
ベンチャーキャピタリストも人間、引き込まれないと前向きになれない
いきなり事業者視点のみで「素晴らしいサービスなんです!」と言われても、それがどういった課題を解決するソリューションなのかピンと来ません。経験豊富なベンチャーキャピタリストといえども、
すべてのひとが、その課題や欲求を体感している訳ではないからです。
そのサービスがユーザーに必要とされる背景や現状の課題を先に共有し、「確かにそのようなサービスがあれば、ユーザーが喜んで使うだろうね!」といったように、ベンチャーキャピタリストから共感を引き出す(ベンチャーキャピタリストにユーザー実感を持たせる)ことに注力すべきです。
たったそれだけでも、その後の事業プランの説明は、聞き手(ベンチャーキャピタリスト)にすっと入っていきやすくなります。逆に、これが全く出来ないようだと事業領域そのものを見直す必要があるかもしれません。
分かりやすい事業計画書の流れとは
では事業計画書とは、聞き手の立場で考えると、どういった流れであれば分かりやすいか?細かい表現方法の違いはあると思いますが、大きな流れとしては以下のように考えています。
▼分かりやすい事業計画書の流れ(※画像をクリックで拡大)
「何が課題」でその解決のためには「どういった要素」が必要か?それを実現するためには「どのようなスキルや強みを持っている経営チーム」が必要か?だから、こういう経営チームでこういう戦略でやっている、など事業計画書は事業を成功させるための一連のストーリーになっていると聞き手にスムーズに入ってきます。
また、冒頭に書いたとおり、事業者視点でのみ語られる事業計画書が意外と多く、ユーザー視点での説明が出来ていない場合も多々あります。ここはベンチャーキャピタリストに説明をする前に、しっかり検証をしておきたいところです。
2.「マーケット規模」のフレームワークは的確に描けているか?
マーケット規模のフレームワークを的確に描けているかも重要です。
簡単な例で考えると、ある会社でECビジネスを運営している場合。
日本のEC市場は現在9兆円規模とされていますが、だからと言って「うちのサービスのマーケット規模は9兆円なので、大きいです。」と言うのは早計です。
マーケット規模は自社サービスの対象でくくる
ECビジネスでも、例えば「女性向け」「衣料・アクセサリー」などと、実際に自社が提供のサービス内容やターゲットを考えると、もっと狭まっていくはずです。
同じように、ECビジネスでも、ECサイト向けのB2Bソリューションを提供する場合も、対象となるマーケット規模は異なってきます。この場合は、ECサイトの数・サイト運営にかけているコスト、ECのB2Bソリューション企業の売上などから推察します。
マーケットが顕在化されていない場合は「代替」の思考も
マーケットが顕在化されていないサービスを提供する場合は、(マーケットを顕在化させるための戦略とセットで)「既存の市場の何割を代替させられるから、このくらいのマーケット規模を狙える」といった思考も必要です。
本気で事業をやっているのであれば、自分の事業にどれくらいトップラインを伸ばせる可能性があるのか深く考えているはずです。
あくまでユーザーの課題ありき
当たり前ですが、マーケット規模から入ってその後に課題を考えるのではなく、まずはじめにユーザーの課題や欲求があり、その総和がマーケット規模につながり、課題解決の対価としてどの程度の収益が見込めるのか?を考える方が良いと思います。
極端な言い方ですが、「市場が大きいからこのサービスは伸びます」という説明では説得力に欠けると言わざるをえません。
3.「競合調査=(ライバルを知る)」は出来ているか?
意外と力が抜けがちなのがこの「競合調査」(=ライバルを知ること)。深い調査をせずに「競合はいません」と言ってしまうスタートアップの方もいます。「競合をしっかり知る」ことをせず、事業が成功するほど甘い世界ではありません。
ビジネス的な確度の他にも「本気度」が問われる
最低限の競合調査すら行っていない場合、必ず起業家の本気度を疑われます。
投資家のお金ではなく、すべて自分自身のお金で事業をやるとしたらどうか?と考えてみて下さい。絶対に失敗はしたくないはずですから、徹底的に他の企業の良い事例・悪い事例から学び、自社の戦略にも積極的に活かすのではないでしょうか?
また、国内向けのサービスを考える時であっても、海外企業の競合調査も当然しておいた方が良いと思います。良い部分は自社の戦略に積極的に取り入れるべきですし、日本からグローバルマーケットを狙える環境が整った一方で、海外勢が日本のマーケットを狙うこともできる時代です。ましてや将来的に海外を狙っているというのであればなおさらですね。
4.「制約条件」にはまった事業戦略になっていないか?
事業の成長を考える時、「理想から考えるひと」と「積み上げ方式で考えるひと」がいます。ベンチャーキャピタリスト向けのプレゼンであれば、理想から戦略・事業規模を考えるひとが好まれるでしょう。
戦略は制約条件ではなく「将来あるべき姿」から考える
「これくらいの資金調達しか出来ないから(とは口には出さないが)、この戦略を考えています」といったあまり夢のない事業計画を見る事もありますが、それだと事業の成長が限られてしまうと思いますし、投資家から見てもなかなか投資したいとは思えません。
どこかで聞いた「シリーズAだとこの金額しか調達できない」といった話は置いておいて、まずは自分の事業の将来あるべき姿を考えましょう。
積み上げ方式で考えて「今年度の予想売上から数年後はこの規模を目指す」ではなく、「想定する市場○○○○億円のうち、○%を○年以内に取りにいきます。そのためにこの資金が必要なのです」という伝え方ができる起業家ほど、事業の成長も早い気がします。
実際にそういった起業家の方のプレゼンや事業計画をお見せ出来ないのが残念ですが、億単位の資金調達を目指すのであれば、ときにはぶっ飛んだ夢を語ることも、ベンチャーキャピタリストに対しては必要です。
5.「KPIとファンネル」はしっかり準備できているか?
事業のステージによっても異なりますが、事業のバロメーターとなるKPIを設定し、しっかり数値を追っていきましょう。それと同時に、ユーザー獲得から成果(例えば売上)に繋がるまでの一連のプロセスを定量的に可視化しておくことが大切です。
シード資金を元にプロダクトを開発・リリースしたあと、さらにアクセルを踏む段階に至っているのであればなおさらです。億円単位の資金調達の交渉において、このタイミングで資金を投入すべき理由を実績に基づいて正しく示せないのでは話になりません。
ステージにより異なる、投資判断軸
以下の図は、ベンチャーの各ステージの投資判断において、「経営者」「事業(数値)」がどの程度のウェイトを持たれているかを、簡単に図式化したものです。
シード・アーリーでは経営者が重要
上記の図に示すように、シード・アーリーの段階では、そもそもサービスの実績が少ないため、そこから得られたKPIによる実現確度の高い数値計画を作るのは難しいでしょう。その分、経営者・経営チームのポテンシャルやマーケットの大きさ、立てている仮説の説得力が投資判断の基準になります。
ミドル・レイターでは事業が重要
一方、ミドルステージ以降では、当然外部環境の変化に合わせた柔軟な戦略変更は必要になりますが、基本的にはKPIの実績を元に成長のエンジンが出来上がりつつある状態であり、どこを押せば事業(業績)が伸びるかが分かっている状況です。
あとはリソースを突っ込みひたすらアクセルを踏み込んでいく段階といえます。そのためにも、納得感のある数値計画とその実証が必要になります。
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6.まとめ
以上、ベンチャーキャピタリストに響く事業計画書を作るために、気を付けておきたいポイントをまとめました。
また、しつこいようですが、サービスも事業計画書も「ユーザー視点」で考え抜かれているか? ここは絶対に忘れないでほしいと思います。あとは、自分の事業計画を客観的に見てみて、自分のお金でも思わず投資したくなる事業計画になっているか?を冷静に見てみてください。
(執筆:(株)サイバーエージェント・ベンチャーズ 代表取締役社長 田島、編集:井出)
■執筆者ご紹介
株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ 代表取締役社長 田島 聡一さん
都市銀行にて、中小企業融資・大企業向け融資やシンジケーション・債権流動化等、約8年間さまざまな企業の資金調達業務に携わる。2005年1月、サイバーエージェントに入社し、ネット金融メディアの立上げに参画後、2005年7月よりベンチャーキャピタル事業に従事。ウノウ(現Zynga japan)、インデックスデジタル(現シナジーマーケティング)、フルスピード、クルーズ、ベクトル、トレンダーズなど二十数社への投資を手掛ける。2010年8月、サイバーエージェント・ベンチャーズ代表取締役に就任、国内外全投資案件の投資判断に関わっている。主な投資先はクラウドワークス、コイニー、Revolver、fluxflex、Zawatt、Kadittなど。
・公式サイト http://www.cyberagentventures.com/
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