ここ数年でアクセス解析をはじめとしたサイト/サービス分析ツールを導入する企業が増えてきました。が、その活用方法が分からず、なんとなく数値を眺めたり、レポートを作ってみたり…そんなケースもチラホラ。
前回の記事でも紹介した「仮説リストアップ⇒解析」の手法で、多くのケースは解決することが可能ですので、今回はより具体的な仮説組み立て方法を実例を用いて紹介したいと思います。
実例対象:住宅情報サイト「SUUMO」
著者が1年半ほど前まで携わっていた大手住宅情報サイト。PCサイトはもちろん、スマホ、アプリでの展開を行っており、CMなどでの露出も多い。今回はこのサイトを題材とし、実際に解析前の仮説組み立てを行っていく。
PCサイトTOPの場合
![]()
メインとそれ以外のコンテンツ誘導を把握
まずはエリアを選択してもらう事を主眼におき、必要であれば買う・借りるという選択肢も用意。
ページ下部に全国共通で参考になるコンテンツや記事を配置(ただし、ほとんどクリックはされていないと想定)筆者の想定ではクリックの7割くらいはエリアを選んでいるものだと思われる。
ただ、「家を探す軸」以外で、どのコンテンツが比較的よくクリックされているかは、ファーストビューにみせるコンテンツを選定するためにもチェックをしておきたい
現状の導線設計が最適なのか調査
一度地域を選ぶと(例:関東)、その後またsuumo.jp(全国のページ)にアクセスしても、自動的にリダイレクトして、前回選んで地域のTOPページの飛ぶという仕様になっている。
このような自動遷移が効果的なのかは、ランディングページとして地域TOPに来た時、また全国TOPに戻っていないか、TOPページのリピーターの割合を見ることで評価が出来そう。
デザイン上の懸念項目をチェック
TOPページの右上に「探しやすい」「使いやすい」などの薄い黄色で囲まれたエリアがあるが、クリックする事が出来ない。
場所も良いしクリック出来そうなデザインになっているので、クリックマップなどが見れるツールで誤クリックが無いかを確認したい。
その他気になったポイントを洗い出し
後は比較的迷いにくそうなページなので直帰率は低いと思われるが、流入元やキーワードなどと掛けあわせてズレがないかを確認しておきたい。
またサイト全体の流入にたいしてトップページがランディングページとして何%程度の流入を持っているかも、ページ改善の優先度を決める上で重要かと思います。
SUUMOの場合は比較的トップページへの流入は少ないのではないでしょうか。
スマホサイトTOPの場合
![]()
メインとそれ以外のコンテンツ誘導を把握
ファーストビューはほぼ「アプリへの誘導」と「エリア選択」で絞られています。
アプリへ誘導したいという意図が見えますが、これはアプリのほうが成果に繋がりやすいからという事なのでしょうか?
現状の導線設計が最適なのか調査
エリアに関してはPCのように地図にはなっておらず利便性からスマートフォン向けのUIに。これはPC以上にエリア選択率が高そう(アプリダウンロードのクリック率次第ですが)
下にスクロールすると、「借りる・買う」といったカテゴリや関連するサービス・サイトの情報なども出てきます。UIは統一されており、使う上での違和感はほとんどありません。
デザイン上の懸念項目をチェック
ただ地域ボタンを押した後も、デザインが一緒かつ、ページ内の一部分だけが切り替わるので、遷移しているのかがちょっとわかりづらい。この辺は全国TOPと地域TOPの行き来や、戻った割合などを確認してチェックしたいところ。
その他気になったポイントを洗い出し
PCとスマホでのマイリストや検索条件をリンクする「ログイン」機能について。
筆者の想定では、物件探しはPCを中心に行い、スマートフォンではPCでマイリストや検査条件として追加した物件を、移動しながら見るという事が想定されます。
そこで、それぞれのログイン率や、マイリスト利用人数、マイリストからの物件ページヘの遷移率なども確認してみても良いかと。PCとスマホウェブサイトでの利用シーンが違うのかを確認し、ログデータでIDをキーにPCとスマホウェブサイトの動きを繋ぐことが出来れば、よりニーズに最適化されたコンテンツやレイアウトが考えられるのではないでしょうか。
スマホアプリTOPの場合
![]()
メインとそれ以外のコンテンツ誘導を把握
Webサイトとは思想が違い、まずは「借りる」「買う」などのジャンルを選ばせるというところに注力しています。
そしてジャンルを選んだ後に都道府県を選び、その後に検索方法を選ぶという遷移の仕方ですね。この方法が良いのか悪いのかを判定するのは難しいのですが、筆者としては少しわかりづらさを感じてしまいました。
![]()
しかしアイコン自体は分かりやすく、ほぼすべての人が何かしらのリンクをクリックしているかとは思います。
アプリの場合は自らの意思で導入し起動しているので、直帰率(=何も押さずにアプリを閉じてしまう)は低いかと思いますが、念の為にチェックしておきたいです。
現状の導線設計が最適なのか調査
特徴的なのは「現在位置から探す」といった方法が、階層深くにしか用意されていないということ。わかりづらいのですが、各都道府県TOPにある「なぞって探す」の中に行くとはじめて、その検索方法が存在するという形です。
こちらはTOPページの分析ではなくなってしまいますが、各検索の利用率やそこからの物件詳細到達率や資料請求率などは確認しておく必要があるでしょう(仮説立てるときには、時々の横道に逸れることも大切です)
デザイン上の懸念項目をチェック
ページ上部の中央にある3つのアイコンの用途がぱっと見よくわかりません。はじめてアプリを立ち上げた人がクリックしても、何も意味がない物なので、誤クリックされていないかを確認したいところです(はじめたの場合はグレーアウトしておいてもよいかもです)。
同業他社の「HOME’S」のアプリの場合は、左上のプルダウンをクリックすると、一覧がアイコン+説明で出てくるので、ワンクリック増えますがわかりやすい構成だなと感じました。
その他気になったポイントを洗い出し
懸念は、アプリに関しては「ログイン機能」が無いということ。PC・スマホウェブサイトは連携が取れるのですが、アプリに関しては連携が取れないということなのでしょうか(違ったらすいません)。
アプリは特性上、真剣に物件を探している人が高いと思うので(この辺りはコンバージョン率や一人あたりの資料請求数を見る必要がありますが)、連携出来ないとしたらもったいなと感じました。
著者:ウェブアナリスト 小川 卓
1978年生まれ。ロンドン大学・早稲田大学大学院卒業。リクルートにてウェブアナリストとして活躍し、現在はサイバーエージェントに勤務。2010年8月にソフトバンククリエイティブ社より『ウェブ分析論』を出版。様々な媒体・団体で執筆活動や講演活動を行い、精力的に活動するウェブアナリスト。
(編集 中村 健太)