起業家なら押さえておくべき「M&Aイグジット(会社売却)」の基礎知識 | IPOと比較したメリデメetc.【宮崎 淳平】

    
2013/06/18
    

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起業家が創業者利潤を受ける方法には、IPOの他にM&Aイグジット(会社売却)があります。

M&Aイグジット(会社売却)には、『準備が短期間でも実施可能』『コストが割安(上場準備、維持に比べ)』『株式を現金化しやすい』などのメリットがあり、IPO以上に魅力的な場合も多くあります。

今回の記事では、イグジット手法としてのIPO及びM&Aのそれぞれのメリット・デメリットや、そもそものイグジットの基礎知識、企業価値を向上させるための施策をご説明します。皆さんが最適なイグジット戦略を立てる際の参考にして頂けたらと思います。

■目次
1. イグジットの種類とは?
 ?創業者利潤を得るためのイグジットの種類とは?
?アメリカではイグジットの9割以上がM&A
?IPOを目指す場合もデメリットを理解し、M&Aとの比較検討をしよう
?(1) IPO後は規制等により株式売却の制限がある
?(2) オーナー経営者が株式売却するとレピュテーションリスクも


2. IPOとM&Aのメリット、デメリット
 ?企業価値が高くなる場合
?IPOのメリット・デメリット
?M&Aのメリット・デメリット


3. バイアウト・ファンドから学ぶ「企業価値向上」方法
 ?投資後すぐにバリューアップ活動を開始
?Buyerにとってのリスク要因を減らす
?売却時の重要作業:セルサイド・デューディリジェンス
?セルサイド・デューディリジェンスの結果、利益指標を上昇修正できる場合も
?説明用資料を作成する


4. 企業価値を高めるために、売却タイミングはこの3つの鉄則を守りましょう
 ?? 自社の事業にとって外部環境が良い時期に交渉を始める
?「類似会社比較法」での評価時に高評価を得るために
?「ディスカウンテッド・キャッシュフロー法」での評価時に高評価を得るために
?外部環境が悪くなると、Buyerの投資会議ではこんな話が…
?? 成長基調が継続している時期に交渉を始める
?類似会社比較法、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法でこう判断される
?? 資金繰りが不安定になってからだと不利になるのでその前に交渉を始める
?よくあるSellerの声

※今回の記事は、元々ライブドア社でファイナンス・M&A業務を担当し、現在はベンチャー企業を含めた多くのM&A経験(特に、セルサイドアドバイザリー経験)を持つ、株式会社ブルームキャピタル代表取締役の宮崎さんにお話を伺って書きました。

1. イグジットの種類とは?

新しいスタートアップが生まれる環境を作るためにも、スタートアップに挑戦する人たちには、創業者利潤が有ってしかるべきです。役員報酬が低額となりがちなスタートアップ・ベンチャー企業では、こういったイグジットの機会こそが、優秀なチャレンジャーを事業推進に駆り立てる一つの重要な要素です。

まず初めに、その創業者利潤にはどんな種類があるか?から説明を始めます。

創業者利潤を得るためのイグジットの種類とは?

イグジットの種類には、大きく『?M&A』『?IPO』の2つがあります。

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創業者利潤というと、「IPO」を連想されるケースが多いですが、それだけがイグジットの方法ではありません。M&Aによるイグジットも今後確実に増えてくることでしょう。

アメリカではイグジットの9割以上がM&A

米国ではベンチャー市場において、圧倒的にM&Aによるイグジットの件数が多く、その割合は9割以上となっており、ここ数十年で急増しています。

ほとんどのイグジットがM&Aによるといっても過言ではありません。日本のベンチャー市場においても、今後はM&Aイグジットがオーナー経営者にとって、もっと身近なものになってくるでしょう。

IPOを目指す場合もデメリットを理解し、M&Aとの比較検討をしよう

IPOとM&Aを比較するとどのような違いがあるのでしょうか。

詳細は後述の『2. IPOとM&Aのメリット、デメリット』でご説明しますが、まずは、特筆して知っておくべき、IPO後に株式を売却しにくくなる理由だけ、先にご紹介します。

(1) IPO後は規制等により株式売却の制限がある

まず会社がIPOすると株の売却について色々な制限があります。

代表的なものとして、TOB規制に代表される各種規制等により株式売却時の処理が煩雑になることや、インサイダー取引規制により売買時期を慎重に検討しなければならないこと等が挙げられます。

後者のインサイダー取引規制においては、実際に大手証券会社等のプロのアドバイスを元に株式を売却したにも関わらず検挙に至った事例もあるようですので、極めて慎重な対応が求められます。

(2) オーナー経営者が株式売却するとレピュテーションリスクも

さらに、オーナー経営者が株式を売却する場合、市場や従業員、会社関係者に対するレピュテーションリスクも発生します。

オーナー経営者が株式を売却するということは長期的に株価が下がるのではないか?との印象を持たれたり、株式売却時に市場での「売り圧力」により株価下落リスクもあったり、投資家への説明が難しくなるケースもあります。


以上で説明した理由により、一気に株式を売却し利益を確定させることが難しく、且つ面倒になるという側面があります。きれいに全株を一気に売却している上場企業オーナーが少ないのはこういった背景があります。

IPO時に自分の持分の株式を市場に「売り出し」する場合は、すぐにキャッシュが手に入ります。しかし、IPO時に一気に保有株全部を売却することは現実的ではありません。当然、オーナー社長がIPO時に一気に株式を売り出し、「これから会社を長期的に成長させます」とはなかなか言えないですよね?当然、市場は許しません。

他にも、会社サイドでみても様々なコストがかかります。上場維持コストとして1億円以上のコスト増になるのが通常ですし、決算発表ごとに様々な手続きが発生したりします。

2. IPOとM&Aのメリット、デメリット

上記では「IPO後は株式を売りにくい」というデメリット部分について書きました。しかし、もちろんIPOにはメリットもありますし、M&Aにもデメリットがあります。

以下にて、簡単にメリット・デメリットをまとめました。これが全てではありませんが、大まかにメリット・デメリットは把握頂けます。

こういったポイントに注意して、皆さんの会社のイグジット戦略を決めると良いでしょう。
IPOのメリット・デメリット
■メリット
    • 今後の資金調達がやりやすくなり、オーナー経営者が主導権を持ちつつ継続して事業拡大を進められる
    • 取引先・金融機関などに対する信用力向上が図れる
    • M&Aに比べて時価総額規模が大きくなることもある(もちろん、小さくなることもある)。場合によっては、利益額から通常の企業価値評価手法で算定される企業価値を大幅に上回る時価総額になるケースもある。
    • 従業員のモチベーション向上につながる
・・・等

■デメリット
  • 一定の利益額と成長トレンドが必須であり、監査や準備等で上場までには最低2〜3年といった時間が必要
  • 株式市場のトレンドによって上場のしやすさや上場時の株価が変動する
  • 株式売却時の手続きが煩雑になる(TOB規制に代表される規制、Buyerも一定以上の議決権取得には大量保有報告書等の提出義務が生じる等)
  • 幹部メンバーによる株式の売却は、市場への悪材料になる可能性がある
  • インサイダー取引規制のために売買時期の判断が難しい
  • 上場の準備・維持に多額の事務コスト、監査法人コスト等が発生する
  • 決算発表、有価証券報告書、など、企業情報の開示が義務付けられる
  • 短期的な数字を求められる場合が多いため、中長期的な視点での企業経営がしにくい
  • オーナー経営者による自由な経営ができなくなる
  • オーナー経営者が事業に飽きたり、新しい事業に専念したい場合、新事業に100%フォーカスすることが難しくなる(オーナー経営者が若い場合、このケースはよく見かけます
・・・等
M&Aのメリット・デメリット
■メリット
    • 準備期間が短期間でも実施可能。
    • 大量の保有株式を一括して売却しやすく、一気に資産のキャッシュ化ができる。
    • 利益額が少なかったり赤字だったとしても、Buyer企業との事業シナジーがあれば株式譲渡は実現可能。
    • M&A先の企業次第で、取引先・金融機関などからの信用度がプラスになる。
    • Buyerが大きなシナジーを見込んで企業価値評価をした場合、IPO以上の企業価値で売却が達成できるケースも多い
    • シナジーにより企業価値が急上昇した場合で一部の株式をオーナー自身が継続保有した場合、将来的に単独では達成しえなかった時価総額での2度目のイグジットが期待できる
    • 上場コストがかからず、1億円以上のコスト削減になることで利益額が相対的に大きくなり、企業価値評価額が高くなる効果を期待できる
    • 事業内容の詳細を開示することなく事業継続ができる(競合へ戦略を隠せる)
    • シナジー次第では、自社単独で事業運営した場合に比べて爆発的な成長も期待できる
    • 短期的な利益追求が不要となるため、柔軟な事業運営が可能
    • オーナー自身が既存事業に飽き、新しく別の事業に100%フォーカスしたい場合には、イグジットで得たキャッシュとM&Aによりイグジットしたという実績を用いて売却後に自由に新事業にコミットできる
・・・等

■デメリット
    • オーナー経営者が対象会社を継続して急拡大させたいと考えている場合、オーナーが主導権を握ることができなくなる可能性がある
    • オーナー企業のままIPOを経験したという実績は作れなくなる
    • 場合によってはIPO後に評価される時価総額に比べ、低い時価総額でイグジットすることになるケースも多い
・・・等
ただし、これもケースバイケースであり、会社によってメリットが増強されたり、デメリットが増強されたりと、明確にどちらが良いと指摘することは出来ません。

企業価値が高くなる場合

例えば、キャッシュフローが潤沢で、将来性が高く、かつ新規性や技術力が非常に高く、また(本質的な価値ではありませんが)メディア等に取り上げられることも多い企業等の場合はIPOにより時価総額が驚くほど上昇するケースもあります。もちろん逆のケースもあります。

また、M&Aの場合は、シナジーを高く評価してくれる企業に適切な方法でアプローチすることで、信じられないような企業価値をつけてもらえるケースもあります。


『企業価値を高める』。これは、M&Aに限らず、イグジットを目指す経営者であれば、全員が興味ある事だと思います。

そこで、次に企業売却のプロであるバイアウト・ファンド(解説は後述)から学ぶ、企業価値向上の方法について紹介していきます。

3. バイアウト・ファンドから学ぶ「企業価値向上」方法

バイアウト・ファンドという名前を聞いた事はありますでしょうか。

これは、『一定以上規模の大きい企業に対して過半数以上の株式を(通常)借入原資と併せて取得し、コスト削減等によりバリューアップを図って2年〜5年くらいで売却する』というビジネスモデルを展開する投資ファンドの総称です。

彼らは企業売却のプロです。

「売却準備と売却交渉」が非常に上手く、ベンチャー企業もその手法を見習う価値があるので、以下でその施策の一部を紹介します。(ただし、ベンチャー企業とバイアウト・ファンドの投資企業は全く異なる性質を持つことが多く、必ずしも同一ではないことも念頭に置く必要はあります。)。

投資後すぐにバリューアップ活動を開始

バイアウト・ファンドは、投資をしてすぐ、売却時に最大の価値を達成できるようにバリューアップ活動を開始します。同時に、売却しやすい準備も整えていきます。

代表的なものとして、無駄な経費を削減しコスト管理体制を構築したり、100%保有でない子会社の持ち分を100%にしたり(次のBuyerが借入を用いた買収(所謂LBO)等を用いる場合、子会社の利益も含めて銀行等に説明できるなる効果もあります)、予実管理体制を構築し精度の高い予算を作成できる体制を整えたり(事業計画の信ぴょう性の向上を図る事にもつながります)、ワーキングキャピタル最適化を実施したり(売掛金回収期間を短縮したりすることでキャッシュフロー増強を図る)と様々な施策を実施していきます。

もちろん、規模の小さい投資先企業に対しては、売上の依存度を下げたり、ビジネスモデルのマイナーチェンジをしたりといった事業そのものに踏み込むケースも多くあります。

Buyerにとってのリスク要因を減らす

バイアウト・ファンドは自身が投資家であるがゆえ、投資家の考え方を熟知しています。

そのため、投資先企業の管理体制を整えつつ、Buyerが負担する実質的なリスク要因を減らし、かつ高いキャッシュフローを見込めるような企業に仕上げていくわけです。

売却時の重要作業:セルサイド・デューディリジェンス

売却の際にも様々な工夫をします。M&Aの取引においては、投資先企業の価値をどのように伝えるのかが非常に重要になります。

デューディリジェンスという単語は聞いたことがあると思います。Buyerの企業が買収対象企業に対して行う調査の事です。

しかしながら、バイアウト・ファンド等のプロの投資家は、ほとんどのケースにおいてセルサイド・デューディリジェンスという作業を実施します。これはビジネス・財務/税務・法務等の観点から、売却時点での自社の調査をSeller自身が行うことを指します。

具体的には、対象会社オフィスに数日間缶詰になり、総勘定元帳を片っ端からチェックして過去のコストや売却後のコスト構造を分析したり、PEST・SWOT・5force・ビジネスフローやビジネスモデル等の各種分析を行ったり、想定問答集を作成したり、中期経営計画を再作成したり、買い手候補企業のリストアップをしたり、各種契約書の問題点を洗ったりという作業を意味します。(なお、余談になりますが、このようなセルサイド・デューディリジェンスをしっかりと実施しない(できない)M&Aアドバイザーや仲介会社も多く、それが不十分であることが原因で、高い確度・妥当な金額で売却できないケースが非常に多く存在します。また、当然ではありますがM&Aアドバイザーの担当者が、対象会社の属する業界に深い見識とネットワークを持つことが正しいセルサイド・デューディリジェンスを実施する上での大前提となります。)

この作業により、自社の価値を最大化できるような情報を整理していき、Buyerが検討する上でボトルネックになりそうな事項は交渉に入る前に解決を図っていきます。

セルサイド・デューディリジェンスの結果、利益指標を上昇修正できる場合も

場合によっては、セルサイド・デューディリジェンスを行った後に、営業利益を上方修正してBuyerに提示できるケースもあります。これは、決算の修正ではなくBuyerに対して説明資料を作成し、当該資料において合理的に営業利益の上方修正を主張することにより行います。

例えば、オーナーが引退するような企業であれば、そのオーナーの役員報酬分を営業利益に上乗せしたり、オーナーの関係者に顧問報酬を支払っている場合、その顧問をはずす前提で顧問報酬分を営業利益に上乗せしたりします。また、Buyerが大企業等の場合は、買収後に削減可能な固定費削減額を営業利益に上乗せする事も出来ます。

こういった方法を通じて、Seller側から「本来の営業利益」を提示できるケースもあるのです。

説明用資料を作成する

次に、これらの調査や分析が終了したのち、これらを分かりやすくまとめた資料を作成します。よく「IM(アイ・エム)」とか「インフォメーション・メモランダム」と言われている資料です。

これらについて、きちんと対象会社の価値が分かるように作成していきます。このIMは基本的な項目は皆似たようなものですが、プロのバイアウト・ファンドやアドバイザーが作成すると非常に交渉上有用な資料となり、ダイレクトに売却時の企業価値評価に影響します。

例えば、新規事業の可能性が高く、その事を訴求したい場合は、時期尚早ではあってもかなり深いマーケティングリサーチ等を実施します。その結果や分析内容を何ページも割いて説明し、新規事業の成功可能性が高いことをBuyerが理解できるような資料を作成します。

Buyerも組織で動いているケースが大半ですので、そのような資料があるとBuyerの担当者は役員会などの意思決定機関や、上司への説明等で社内理解を得やすくなります。


このように、長期的に準備をし、きちんと自社を調査・分析し、それを適切に伝えられるようにすることが非常に重要です。

『企業価値を高める』ためには、他にも適切な売却タイミングを選ぶ事が必要です。タイミング次第で大きく評価は変わりますので、次にそのあたりの注意点についてご説明します。

4. 企業価値を高めるために、売却タイミングはこの3つの鉄則を守りましょう

M&Aによるイグジットは、売却を決断して交渉を始めるタイミングが非常に重要です。タイミング次第で評価額はかなり変わります

「もう少し早く売却プロセスを開始していれば良かった…」なんていう事にならないように以下の3つのポイントを意識して、売却の意思決定をしましょう。もちろん、これ以外にもありますが、ベンチャー企業にとって重要と思ったものをピックアップしました。

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それぞれ、詳細に解説していきます。

? 自社の事業にとって外部環境が良い時期に交渉を始める

投資家やBuyer候補者が買収対象企業を評価する場合に必ずチェックするのが「外部環境」です。

ざっくり言うと、今後買収対象企業が伸びるために良い機会が今後待ち受けてるか、もしくは脅威となる要素がないかを検討するわけです。

「類似会社比較法」での評価時に高評価を得るために

具体的な話でいうと、例えば企業価値評価に用いられる一つの方法に類似会社比較法という方法があります。

これは買収対象企業の類似会社の企業価値/キャッシュフローの平均倍率を調査し、その倍率に買収対象企業のキャッシュフローを乗じて買収対象企業の企業価値を算出するものです。

外部環境が良いと、この倍率も高くなることが多く、評価額が上がる傾向にあります。

「ディスカウンテッド・キャッシュフロー法」での評価時に高評価を得るために

次によく用いられる企業価値評価方法にディスカウンテッド・キャッシュフロー法というものがあります。

これは今後のキャッシュフローの合計額(正確にはキャッシュ・フローを現在価値に割り引きますがこの点は改めてご紹介します)を企業価値とする方法です。

この場合、将来のキャッシュフローはどのように求めるのかというと、「プロジェクション」と言われるBS、PL、CFが連動した財務モデルを作り、このモデルを計算の土台とします。しかし、このPLの数値も外部環境を検討しながら、KPI(販売個数や販売単価、仕入単価等のKey Profit Indicator)をプロットし、売上や利益を予測・計量していく事となり、当該KPIの指標の設定にあたっては当然外部環境を鑑みて決めて行くことになります。

外部環境が悪くなると、Buyerの投資会議ではこんな話が…

もし外部環境が悪くなると想定される場合、Buyerの投資会議等では、

  • 「いやぁ今後は仕入先の交渉力が強くなるから、利益は下がってしまうよね。だから、モデル上の仕入単価は3年後に10%上がるように設計しようよ」
  • 「競合のB社と代替品提供者のC社が今後強くなるから価格競争になるので販売単価を下げて、かつ顧客減少数も上げてみようよ」
  • 「SEMコストは今後競争激化で高くなるから広告費率は上げようよ」

といった会話の中でどんどん「将来キャッシュフロー」が少なく見積もられる事になり、企業価値評価額も下がっていきます。

もし、外部環境が良い場合は、Sellerの提出した事業計画に対してそれほど大きな「ストレス」をかけなくて済むので、企業価値評価も一定の期待が出来ます。

また、もう一つとても重要なことがあります。買い手が企業価値評価をこのようなプロジェクション(財務モデル)を材料として算出する場合、基本的には「売り手が出したプロジェクションを叩いた(より悪く見積もった)ものを用いる」ということです。つまり、如何に外部環境を買い手が評価し、「いやぁ販売数量や売上単価はもっと高くなるだろ。」と買い手が思った場合においても、それを根拠に売り手が出したプロジェクションを上方修正することはほとんどないということです。

基本的にはSellerの提出した事業計画をBuyerがさらに良く見たりすることはありません。したがって、Sellerサイドは、買い手に提出する事業計画の設計とバックデータとなるKPIの妥当性は十分に検討し、どのようなプロジェクションを提示するかについては十分に協議する必要があると思います。

? 成長基調が継続している時期に交渉を始める

これは?の話とも重複する部分もありますが、基本的にBuyerは「トレンド」を見ます。

言い換えると、直近数年間のPLやワーキングキャピタル(*1)の推移に加え、月次ベースの売上推移と月次売上推移の前年との比較等もきちんと行うものです。

ここでトレンドとして「業績下降傾向」と判断されるとSellerにとっては有利に交渉できなくなります。

類似会社比較法、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法でこう判断される

先に紹介した類似会社比較法においても「競合平均は5倍だけど、これは投資家がこれらの優良企業が今後も伸びるとみてこの株価をつけているから、この買収対象会社のようにダウントレンドだと3倍くらいになるかな」という話になります。

ディスカウンテッド・キャッシュフロー法においても、「ダウントレンドを考慮すると販売数がこんなに伸びると考えるのは妥当性がないから少し叩いて(販売数量を下げて見積もって)みよう」とかいう流れになるわけです。

自社が絶好調に成長しているときにM&Aイグジットの判断をするというケースはあまりまだ多くありませんが、今後は増えてくるものと考えています。

*1 ワーキングキャピタル:売掛金回収期間等の取引条件等が影響を与える指標で、これが増えるとキャッシュフローが下がっていることになる。

? 資金繰りが不安定になってからだと不利になるのでその前に交渉を始める

これは当たり前といえば当たり前です。資金が不安定になると交渉力が弱くなります。

私のところにも資金繰りが厳しくなってから相談にこられるケースが多くあります。その時の相談内容は以下のようなものでした。

「会社を売却したいと思っているんですが、資金が来月にはショートしそうな状況です。1か月で検討をしてもらって同時に増資をかけてもらわなければ給与支払いができなくなります。」

このような状況をBuyerが見たら、多くのケースにおいて「救ってあげることはできるが、株価は高くはつけられない。」ということになるわけです。

よくあるSellerの声

また、ここで重要なこととして、多くのSellerはこのようにおっしゃります。

「実は1年前に売却を検討していたのですが、価格が合わずに取りやめたんです。あの時に売却していればよかったかなぁ。」というものです。このような状況になるのはもっとも避けたいものです。

このような企業は、最初に売却を検討した1年前の時点では一定のValueがあり、世の中のBuyerにとっても有効活用できる状態であったケースが多いです。その時に、売却が実行できていれば、例えば顧客も失わず、会員数も増加傾向にあり、優秀な従業員も辞めていないといった状態のまま、既存の事業が継続できていたケースが非常に多くあると思うのです。

「ベンチャーでアイデアが非常に良かった企業」「特定の顧客層を押えていた企業」「優秀な開発チームによって開発された秀逸なシステムを持っていた企業」など、様々なケースでこのような売却のタイミングを逃してしまった実例を見て来ています。

—-
以上、『起業家なら押さえておくべき「M&Aイグジット(会社売却)」の基礎知識』でした。

皆さんも将来的にイグジットを考えている場合、今回ご紹介したナレッジを元にM&Aも考えてみて下さい。

(取材先:宮崎淳平さん、記事/編集:井出一誠

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■取材先ご紹介
株式会社ブルームキャピタル
代表取締役社長 マネージング・ディレクター 宮崎 淳平 さん

prof130大学在学中より株式会社ライブドアファイナンス事業部及びライブドア証券株式会社 投資銀行本部に入社(兼務)。M&A業務と投資業務に従事し、多くの種類の先進的M&Aを経験。その後、株式会社セプテーニ・ホールディングス(業界2位のインターネット広告代理店、JASDAQ上場企業)へ、投資/M&A部門責任者として入社。2010年よりブティック投資銀行である株式会社社楽にIT業界の事業開発担当責任者として入社。インターネット・ITといったTMT領域、アパレル領域、エンターテインメント領域、ヘルスケア領域を得意とし、韓国・中国・シンガポールを中心としたアジア案件にも精通し、多くのネットワークを保有。同領域を中心とした様々なM&A、企業再生、コンサルティング案件を主導。

・株式会社ブルームキャピタル http://www.bloomcapital.jp/
・ブログ  http://www.venturenow.jp/column/miyazaki/
・Facebook http://www.facebook.com/jumpei.miyazaki.7

本エントリーは、Samurai Startup Island主催のイベント、「IT起業家のためのM&Aイグジットバイブル」(イベント自体は終了しています)での宮崎さんの発表を元に、取材し再編集したものです。

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