業界全体でエンジニアが足りていません。
1年前に行われたマンパワーグループの調査によると、足りない職種第1位はエンジニアだそうです。調査から1年経った今でも状況は思わしくなく、世間的な需要の高まりを受けてますますエンジニアの採用は難しくなっています。
スタートアップにとっても例外ではありません。様々な方面から「エンジニアを増やしたい」という切実な声を耳にします。
しかし世の中には、「転職したいエンジニア」がいないわけではありません。 単に採用アプローチをミスしているだけの場合も数多くあるのです。 今回のエントリでは、エンジニアではないCEOの方向けに、「優秀なエンジニアを採用する方法」を解説します。
エンジニア採用の5つの鉄則を教えて頂けるのはアマゾンデータサービスジャパンの松尾康博さん。 松尾さんは現在、アマゾンウェブサービス(AWS)のソリューションアーキテクトとしてエンジニア採用に携わっていますがスタートアップの経験もあり、元々マイネットジャパンでCTOを務めていました。スタートアップの採用で悩んでいた松尾さんに、5つの鉄則を教わってきました。
■ 優秀なエンジニアを採用するための5つの鉄則
1.欲しいエンジニア像を明確にしよう
2.エンジニアを理解しよう
3.採用方針を決めよう
4.エンジニアと出会える勉強会に行こう
5.採用後はきちんとマネジメントしよう
企業側にどういうエンジニアが欲しいか聞くと、大抵、以下のような答えが返ってきます。
・オールラウンドプレイヤーである(開発、インフラ、運用まで出来る)
・コスト意識が高い
・学習意欲が高い
・技術的な尻拭いができる。最後の砦として安心感がある
・自動化の発想がある
・ハードに働いてくれる
・給与は安くてもOK
しかし本当は皆さんも知っているはずです。こういう条件を全てを満たすような人材はほとんどいません。できたばかりのスタートアップなのに、このような超絶エンジニアにジョインしてもらうことは至難のワザです。高望みな希望ばかりでは採用はうまくいきません。
「Webサービスのアイデアはあるので、作ってくれる人を探しています」という募集も見かけますが、これもよくありません。欲しいエンジニア像をもっと明確にすべきでしょう。
ではどういった募集をかけて、どのようにアプローチすれば良いのでしょうか? すべてはエンジニアを理解する事から始まります。エンジニア採用の極意は、まず「エンジニアを理解する」事です。
まずはエンジニア採用をする前に「エンジニアがどういう人種か?」を理解しましょう。他の職種と同様に、ある程度採用に傾向・コツがあります。
エンジニアはエンジニアでも、スタートアップに所属する人と、Web系大手に所属する人とでモチベーションは違います。 会社の規模別に考えても、ある程度事業が大きくなるとつまらなくなる人もいますし、大手企業を渡り歩いて働きたい人もいます。ユーザー向けのサービスをやりたい人もいれば、SIerを好む人もいます
皆さんのスタートアップにジョインしてくれるエンジニアを探すため、欲しいエンジニア像にターゲットを絞り志向を理解し、採用したいエンジニアのモチベーション具合を探ることは大変重要です。
欲しいエンジニア像を思い描きエンジニアという人種を理解したら、次に採用方針をスッキリさせておきましょう。
スタートアップのステージにより、採用方針は変わっていきます。
全てのステージにおいて、即戦力よりも「適応力、生存能力、改善能力」を意識した採用を心がけるとグッドです。
● 初期はビジョンを優先
→ シード期のスタートアップには、エンジニアの心に訴えかけるビジョンこそ有効打となります
● 規模拡大時は役割を意識する
→ その人の役割が具体的に思い浮かばなければ採用しない覚悟が必要です
特に重要なのは、規模拡大時の採用方針です。やってもらいたいこと(役割)を明示的に伝え、お互いが認識している状態が望ましいでしょう。採用において以心伝心はないのですから。
非エンジニアであるあなたにとって特に重要な点は、どんなにキラキラ輝いて見えるエンジニアでも、安易に採用しないことです。ポイントは以下の5点です。
1.いくら良い人がいても不必要に採用しない
2.無理やり役割を作らない
3.採用に妥協しない。打算的にならない
4.一緒に働きたいか?を考える
5.チームに加わることで、チーム全体の底上げになるか?を考える
全体における一人の割合が大きいスタートアップにとって、「チーム全体の底上げになるかどうか」は特に重要な点です。CTOが、自分より出来ない人を取ってしまうというケースをよく見かけますが、今いる仲間の平均以上のメンバーを採用することは重要です。
採用基準を決める際の基本は、会社の人事評価基準にしたがうことです。採用基準は本来、そのまま人事評価基準になるべきポイントですが、そうではない会社もたびたび見かけます。
高い基準で採用したエンジニアは高い人事評価を求めています。「給与テーブルが決まっていないから、採用基準と人事評価基準は異なる」という説明をするスタートアップもありますが、これでは問題になりません。
エンジニアの「やりたいこと」と「できること」は違います。目立つエンジニアというのは「やりたいこと」を前面に押し出したクリエイタータイプの方が多いですが、実際には「できること」を粛々とやってくれる職人タイプのエンジニアがいないと業務は回りません。
ネット上では表に出てくるクリエイタータイプにスポットが当たるケースが多いですが、クリエイターばかりだと、コントロールできなくなります。注意しましょう。
第一印象が大切なのは、人間関係も、エンジニアの採用に関しても同じです。エンジニアに会った時に会社のビジョンを的確に伝えられるよう意識しましょう。チェックポイントは以下の3つです。これらのポイントを押さえておけば十分です。
● イグジットは上場かバイアウトか?
→ スタートアップを渡り歩くエンジニアはここを強く意識します
● 労働集約型のビジネスか? レバレッジの効くビジネスか?
→ 手がけるサービスの規模感に関わってくる重要なポイントです
● ぶれない軸は何か?
→ 経営判断の根幹を説明できるようになりましょう
会社のビジョンを押さえておけば、採用方針がブレることはありません。
そもそも、優秀なエンジニアがどこにいるのか知らないとエンジニアには出会えません。最近のエンジニア採用はGitHubで行われていたりなど多角化の一途をたどっていますが、非エンジニアCEOにオススメしたいのは勉強会です。
エンジニアに出会えないと嘆いている方は、エンジニアが集う勉強会に足を運んでみましょう。 Googleカレンダー上で公開されているIT勉強会カレンダーは必見です。情報感度が高いエンジニアはこういう勉強会によく行きます。もちろん仕事以外の時間を使って、です。
非エンジニアCEOの方にとっては、プライベートの時間を使ってまで勉強会に参加するエンジニアマインドをなかなか理解しにくいかもしれません。モチベーションの高いエンジニアはこういうところへ率先して出かけていきます。あなたがほしいエンジニアは、こういうところに数多く生息しています。
GitHubに公開されたプログラミングの善し悪しが分からずとも、勉強会であれば優秀なエンジニアを見つけやすく、また知り合いに紹介してもらうこともあるかと思います。オススメです。
エンジニアが自ら勉強会を開くための環境は、業界全体を上げて整いつつあります。GREE、VOYAGEなど、大手企業は無料で勉強会会場を貸している場合もあります。エンジニアが個人的にやっている勉強会も多いです。
勉強会に言っても優秀なエンジニアに話しかけられないシャイなCEOの方は、自分で勉強を開いてしまうのが良いでしょう! 自然とつながりが増えていきます。
エンジニアは非エンジニアの下請けではありません。同じチームにいる仲間です。役割が違うだけですので、基本的に対等の立場であるべきです。
自分で出来る事と相手にして欲しい事の線引きをはっきりさせましょう。
非エンジニアであるあなたが、エンジニアを評価するのはとても難しいということをはじめに理解しておきましょう。エンジニア本人が納得する評価軸を決める必要があります。評価する人の主観によってブレない評価軸が必要です。どうしても悩んだら、先輩スタートアップのCTOに話を聞いてみると良いでしょう。
今回上げた5つの鉄則を押さえておけば、お互いの役割を認識し、相互補完するチームを目指せるはずです。良い採用ができますように!
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本エントリーは、Samurai Startup Island主催のイベント、「非エンジニア系CEOのためのエンジニアの採用&マネジメントの話」(イベント自体は終了しています)での松尾康博さんの発表を取材・再編集したものです。本人にご許可を頂き掲載しています。
Samurai Startup Islandはこの他にも毎週2回のペースでイベントを開催しています。ぜひチェックしてみましょう。
(発表:松尾康博)