SEOはWebサービスの要の一つ、それは誰もが知るところ。ですが、「Webサービス」と一口に言っても、スタートアップと中堅以上のサイトでは、SEO対策上やるべき事が違う事はご存知でしたでしょうか?
この違いを知っていて適切な戦略が取れるかどうかで、成果の出方が全然違います。情報が出ることが少ないスタートアップ向けのSEOについて、コツと具体策を成功例、失敗例交えてお伝えします。
著者:辻 正浩( 株式会社 so.la )
株式会社アイレップなどを経て独立。
現在日本有数のWebサービスや大規模サイトを中心に、数十を超えるWebサイト・サービスのSEOを手がけるスペシャリスト。
Web系スタートアップがSEOで失敗するポイント

Webサービスを中心にしたスタートアップで大きな予算を持っている会社はわずかでしょう。成長のために大きな予算を投下して広告を打つことも困難です。そのため「予算ゼロでできる」とうたわれるSEOに期待される会社が多くなっています。
しかし、それらがうまくいく例はごくわずかで、多くの会社は期待する効果を得られていません。
それはどうしてなのでしょうか?まずは、Web系スタートアップがSEOを失敗する要因を挙げてみましょう。
無施策のサイトならSEOの成果も上がりやすいが…
全くSEOを考えていなかったWebサイトの場合、
Googleが公式に公開している情報を元に少し配慮を行うだけで十分な効果を得られます。
以前は様々な配慮を行わない事には検索エンジンは正しく認識してくれませんでしたが、高性能化した現在、正しくWebサイトを構築していれば十分な検索流入は得られますし、Googleが公式に出している情報だけでも相当の成果を上げる事は可能です。
Webサービスの多様性とユニークさがSEOを難しくする

しかし、大きな成果のために基本的なSEO以外を行う場合には難易度は上がります。特にWebサービスのSEOの難易度は極めて高いのです。
それは、多くのWebサービスが他のWebサイトとは異なる構造やコンテンツを持っているユニークなものだからです。
”真似ができない”という難しさ
例えば一般的なECサイトの場合、Webサイトの構造もある程度似通っています。そのため、少し調べると行うべきSEO施策を見つけ出す事はできるでしょう。様々な機会で先達に相談することもできます。キーワードの調査・対応以外については、成功例を真似することで成果を期待できます。
しかし多くのWebサービスではそうは行きません。スタートアップが運営するWebサービスは多くの場合非常にユニークなWebサイトで、似たWebサイトは非常に少ないでしょう。先進的な技術やこれまでに無いコンテンツを持っているようなWebサイトも多くあります。SEOの事例が出ることもほとんどありません。
【失敗するポイント1】似たサイトの施策を真似ても上手くはいかない
たとえ似ているWebサイトがあったとしても、その真似もうまくいかない場合が多いものです。
大手のクチコミサイトの施策をスタートアップのクチコミサイトが真似しても全くうまく行きません。
一般的には他のWebサイトのSEOを学ぶ事は非常に有益ですし、他のWebサイトのtitle付けやユーザビリティ等を学ぶのは非常に有益でしょう。
しかし、ことにWebサービスなどの複雑なサイトの場合、外から見る限りでその意図を推測することは困難です。私が関わっているWebサービスのSEOを分析した記事を見ることもありますが、その多くが見当違いになっている場合が多いことからも、やはり外からはわかりづらいものだと実感しています。
スタートアップが運営するようなユニークなWebサービスのSEOは、参考にできる情報が少ないため非常に難しいのです。
【失敗するポイント2】大企業とスタートアップで大きく異なる
「期待効果量」と「施策」のズレ
スタートアップ企業では前年比で数倍を目指している会社も多くあります。これは一般的なWebサイトの成長としては常識外れの目標です。
前にも書きました通り、基本的なSEOは難しいものではありません。ただ、そのようなSEOは長期での費用対効果を期待してコンテンツの追加や内部要因の調整などを行なっていくもので早急な成果は期待しづらいのです。
もし短期間での大きな成果を早期も目指すのであれば、一般的なSEOのみを行なっていてはうまくいきません。
常識はずれの成長を成し遂げるためには常識はずれの施策が必要なのです。
ところが、実際に行われるSEO施策は一般的な内容に留まっている場合がほとんどです。SEOを全く行えていなかったWebサイトではそれでも大きな成果になる場合もありますが、多くの場合は期待する常識はずれの成果を上げられません。
【失敗するポイント3】SEOに十分な予算を組まない
SEOはよく「予算ゼロで出来る」と言われますが、それは大きな間違いであり、失敗の要因となります。
確かに広告出稿のように直接的にお金がかからないでしょう。しかし、しっかりとしたSEOを行うためにはWebサイトの大幅な改修が必要です。
それに費やす工数を考えると、SEOは予算ゼロでできるとは絶対に言えません。しかしSEOを「予算が掛からない」気軽にできる施策として捉えている会社が非常に多いように思えます。
その場合、SEOも中途半端な施策しか行われない事になり、効果も中途半端にしか出ない事になります。
大きな効果を上げるためのしっかりとしたSEOは気軽にできるものではありません。場合によってはWebサイトの全面的な改修も含む、Webサービス運営の方針を変える事さえ必要になるような施策なのです。
【失敗するポイント4】スタートアップのSEO経験を持った人が少ない
ユニークなWebサービスの本格的なSEOを行うためには、WebサービスのSEOの経験を複数持っている事が必要になります。
新しい要件に対応するためには過去の経験が必要になります。しかしWebサービスの本格的なSEOを行った経験を持つ人はわずかしかいません。
本格的なWebサービスを複数運営した経験がある人はわずかでしょうし、それぞれでSEOに注力した経験を持つ人は更に少ないでしょう。また外部として関わった経験を持つ人もわずかですので、そのような人は非常に忙しくしているか非常に高価です。(私も現在は新規の仕事はお受け出来ておりません)
最近、Webサービスのスタートアップに対してSEOの営業をする会社も増えてきたと聞きます。しかし実際に契約をしてみると知っているような常識的な提案に留まっていた、現実的な提案は行われなかったとの声もよく聞きます。
そのような会社はWebサービスのSEOの経験をほぼ持たないにもかかわらず営業している場合が多いようです。
注意しましょう。
スタートアップ企業がSEOを成功させるためには?

そもそも特殊なWebサービスのSEOは難しいもので、スタートアップに求められる成長量をSEOで達成するには工数も掛かり、ノウハウを持つ人も少ないのです。
しかし、SEOを大幅な成長の要因として期待するべきではないというわけでもありません。SEOをうまく使う事で、確かにスタートアップのWebサービスは大きな成長を遂げる可能性を持っていますし、私も複数の成功例を見て来ました。
さて、では何に注意すればスタートアップのWebサービスがSEOに成功できるのでしょうか。
【成功するポイント1】常識外の成果をSEOで上げる”改善スピード”
スタートアップが運営するWebサービスで大きな成果を上げるためには「改善の速度」が重要となります。
ほとんどのSEOでは検索という限られたパイを奪い合うことになりますので、必ず検索競合がいます。ここしばらくはGoogleは大手サイト有利に傾いていますので、多くの場合では大手サイトが検索競合となることでしょう。
そこで大手サイトの既存の人気とコンテンツに勝る方法は
”スピード”となります。
「小回り」が成果のカギになる
大手サイトでの大きな修正は多くてもは一ヶ月に1-2つなどでしょう。中規模のサイトでも、1-2週に一つ程度になります。既存のコンテンツやファンを多く持つWebサービスは、修正のために多くの調整が必要ですので、大手サイトがスピードを上げることは非常に困難。
そこだけは、小回りが効くスタートアップが明らかに有利なことです。
基本的な施策以外では、確かなアドバイザーを得ない限りは確実に効くSEO施策を期待することはできません。自信が無い施策でもどんどん進めて、問題があったらすぐに切り戻すという事を継続していくのがスタートアップがSEOで大手に勝るポイントです。まずは一週間でPDCAの一サイクルを回す体制を作るべきでしょう。
【成功するポイント2】Webサービスの価値をSEOに活かす
価値がないWebサービスのまま検索流入数倍を目指すのは困難。出来たとしてもあっという間に検索エンジンに落とされます。
もしサービスに価値が無い状態から、
SEOだけで成長するつもりでしたら、SEOの前に考えるべきことがあるでしょう。
スタートアップのWebサービスは強い価値を持っているはずです。しかしその価値は、立ち上げて間もないため多くの人に認識されていなかったり、新しい価値であるため理解されづらいものかもしれません。それを多くの人に伝えるためにはSEOが役立ちます。
人間に伝えたい価値を検索エンジンにも認識させる
SEOは「人間に認識される価値を検索エンジンにも認識させる」事が基本なのです。
そして、Webサービスの価値が上がっていくタイミングで、SEOを十分な形で行うことが出来れば、価値の向上とともに検索流入も伸びる事になります。
ユーザ数が倍になると検索流入も倍に。ユーザの活動頻度が倍になれば検索流入も倍に、という形を目指す事が、スタートアップのWebサービスのSEOを成功させる上でのポイントになるでしょう。
Webサービスの価値が高まる事で検索流入も高まって、それが更なるユーザを呼び込み、更なる価値向上と検索流入上昇に結びつくという非常に望ましいスパイラルが発生します。
【成功するポイント3】検索エンジンからの認識の重要性
「サービスの内容を検索エンジンに認識させる」と「人の評価をリンクに変える」という2つのポイントが重要になります。
様々な技術を使いがちなWebサービスでは検索エンジンがコンテンツを認識しづらい状態が多くあります。どのようなコンテンツでも、それを検索エンジンにも認識させやすい形で公開することは必須の要件です。
そのためには様々な技術要件が必要となりますが、これはGoogleが公式に言う「テキストブラウザでも使用できるようにする」事を何らかの形で実現するしかありません。
「人の評価をリンクに変える」とは?
Webサイトに対する価値の向上とともに検索流入を上げるためには、Webサイトに対する人の評価を検索エンジンが認識できる形で発生させなくてはなりません。
検索エンジンが評価するWebサイトの価値としては「リンク」が第一に挙げられます。つまり人の評価がリンクという形で発生するようにしなくてはならないのです。
「サービスの内容を検索エンジンに認識させる」
「人の評価をリンクに変える」
この二つは両方とも簡単な事ではありません。しかしこの二つを実現できれば、Webサービスの価値がそのまま検索流入につながる状態になります。
自分のWebサービスの内容が検索エンジンにも認識されるようになっているのか、Webサービスの評価がリンクに結びついているのかを意識し続けて、それを向上させるための施策を、繰り返していくしかありません。
具体的には、それぞれのWebサービスの技術的な要件やWebサイトの構造、さらにはどのようにユーザ様に使われているかなどによって最適なものを考えていきましょう。「改善のスピード」をあげて、数多くの施策を継続的に行なっていけば、それは必ず成功できるでしょう。
まとめ:サービスの価値向上をそのままSEOに

この記事では、Web系スタートアップがSEOで大きな成果を上げるためのポイントを説明して来ました。
変化が無いWebサイトの検索流入をSEOで数倍に上げる事は困難ですし、通常は不可能でしょう。
しかしWebサイトの価値が向上しているのであればその向上速度と合わせて検索流入を伸ばすことは十分に可能です。
そのような状態をつくり上げられれば、SEOを意識せずとも自社のサービスの価値を向上させることでそのままSEO上の価値を向上させられる状態を作り上げられるのです。そうなりさえすれば、本来のサービスの価値向上に集中するだけで集客も行える事になります。
SEOは全ての問題を解決するわけではありません。しかし認知・集客という段階の問題を解決する力は持っていますしそれはスタートアップのWebサービスにとって非常に重要な事でしょう。
ぜひ、「人間が評価するコンテンツ」と、「その価値を検索エンジンも評価する状態」を作る事に取り組んでみてください。
(執筆
辻 正浩 / 編集
中村健太)